木質バイオマス熱利用(温水)を成功させるための技術研修会の開催について(実施結果の報告)

(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会

当協会では、多数の関係者の参加と2年以上の時間をかけて検討してきた「木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル(基本編、実行編)」を8月に刊行しました。このマニュアルは欧州で広く行われているシステムを参考に、我が国におけるボイラー規制の緩和(2022年3月)も踏まえ、我が国における木質バイオマス熱利用(温水)の効率的なシステムを標準化したものです。ゼロカーボンに向けて木質バイオマス熱利用の一層の推進が図られなければなりませんが、これまでの実態を反省しつつ、効率的で事業性の高いシステムを定着させていく必要があり、その一環として刊行したものです。

そのため、マニュアルの刊行を記念し、木質バイオマスに関係するメーカー、コンサルタント等を対象に、10月19日、20日の2日間、延べ8時間にわたり、「木質バイオマス熱利用(温水)を成功させるための技術研修会」を実施しました。

演目と講師は以下の通りです。講師は、マニュアルの執筆者の方々です。

  1. システム構築の基本的考え方とポイント:日本木質バイオマスエネルギー協会顧問 加藤鐵夫
  2. ボイラー及び関連機器の設置・利用における留意点:元巴商会常務取締役 池田文雄氏
  3. 熱負荷分析のやり方:WBエナジーエンジニアリング部 工学博士 山崎尚氏
  4. システム設計(回路と制御)の考え方と実際:小野コンサルティング事務所代表 小野春明氏
  5. ボイラーの選択、事業性の評価:元神鋼リサーチ代表取締役 黒坂俊雄氏

それぞれの講義内容は、マニュアルを基本とされましたが、注目点を整理すると次のようになります。

加藤の講義では、全般的方向性が説明されましたが、特に、我が国の木質バイオマスボイラーの導入台数が伸びていない中で、木質バイオマス熱利用の拡大を図っていくためには、効率的なシステムを実現していくことが重要であるとともに、今回の規制緩和やゼロカーボンの動きを生かし、メーカー等関係者が一丸となって新たな展開に取り組むべきことが強調されました。

池田氏の講義では、木質バイオマスボイラーの特徴を概述されるとともに、安全装置のあり方とりわけ規制緩和に即した安全装置のあり方、さらにシステム制御の仕方とそのための測定装置の計装のあり方等が説明されました。

山崎氏の講義では、適切なボイラー選択等のために重要な熱負荷分析のあり方について説明されました。そこでは、石油ボイラーはピーク負荷に対応するため、最大負荷計算ができれば良いが、木質バイオマスボイラーでは、時刻別負荷変動を把握することが必要とし、そのための具体的なやり方についても解説されました。時刻別負荷変動の把握は、かなりの労力を要しますが、木質バイオマスボイラーの規模の選定については、蓄熱タンクやバックアップボイラーにどこまでを担ってもらうかということに加え、木質バイオマスボイラーでは出力30%以下では対応が困難になる(最低出力ライン)も考慮することが必要で、時刻別の分析が基本的には避けられないとされました。これまでの熱負荷分析ではそのような時刻別までの分析がされていないことが多いのですが、ボイラー及び蓄熱タンクの規模の適切な選択のためにはそこまで行うことが必要であるとともに、今回、そのやり方のノウハウが開示され、説明されたことは、これまでなかったことでした。

小野氏の講義では、まず、熱供給プラントの設計の要点が解説されました。実はこれまでの基本設計では、ボイラー規模やそれに伴う燃料使用量の算定等がなされそれに必要な機器等が羅列されることにとどまっていることが多く、今回指摘されているボイラープラントの回路・制御の適切な設計、熱導管の回路・制御の設計、往き・還りを確実に制御する方法等プラントの設計までは踏み込まれていませんでした。そのため、その内容はQM Holzheizwerkeに明らかにされているとされるとともに、具体的な標準回路のあり方を説明されました。この場合、我が国の実態としては既存の回路を生かしていくための工夫が必要であり、そのための応用回路のあり方も提起されました。

黒坂氏の講義では、木質バイオマスボイラーの事業性について、イニシャルコストはかかり増しにならざるを得ない面があり、かかり増しをランニングコストをできるだけかけずに回収していくこととなるが、燃料費の低減は、地域経済への貢献等を考えればそれに依存すべきではない、安いコストの燃料を求めることだけに依存すべきでないとされました。そのため、事業性については、10年以上の長期的視点で考えていくことが必要であるとともに、効率的なシステムを作り上げていくことが基本であり、①熱効率が高く燃料使用量が少ない、②ポンプ等の無駄がなく電気使用量が少ない、③自動クリーニング、遠隔監視等によりメンテナンス費が小さい等が求められるとされました。これらを具体化するためには基本設計が重要として、基本設計における留意点について縷々説明されました。

意見交換では、欧州で行われている蓄熱タンクの成層管理に拠る制御がなぜ我が国では実現されてこなかったかが議論になりました。その要因として挙げられたのは、以下のようなことでした。

  1. 石油ボイラーと木質バイオマスボイラーシステムの違いについて十分な検討が行われず、石油ボイラーのシステムを木質バイオマスボイラーに置き換えることが是とされてきたこと
  2. ボイラー規制により我が国においては無圧式温水機等が開発されたが、無圧式温水機と蓄熱タンクの間に熱交換器が介在し、両者を直結することが困難で蓄熱タンクで制御するシステムが取り辛かったこと
  3. 温水タンクの管理については温水の温度分布を均一にすることが一般的であり、高温から低温までの温度成層を作るという考え方が浸透しなかったこと
  4. 蓄熱タンクで温度成層を作るためには、蓄熱タンクの背を高くすることが必要で、そのことが建屋を大掛かりにする可能性があること

その意味では、今後、蓄熱タンクによる温度成層管理を実現していくためには、規制緩和の結果も踏まえた新たなあり方を具体的な実例として示し、その方法が効率的で事業性の確保にも優れたものであることを実証し、関係者にこれまでの考え方を見直してもらうことが重要となります。

今回の研修会では、講義のみでなく意見交換も行いたいと考え、参加者数は絞りたいと想定していたが、参加された事業者は、トモエテクノ、巴商会、WBエナジー、日本サーモエナー、テスエンジニアリング、九州林産の皆さんで、コンサルタント系の事業者の参加がなかったことは残念でした。

熱負荷分析によるボイラーや蓄熱タンクの規模の決定、回路・配管等含むプラントの設計にしても基本設計の段階での検討が重要ですが、これまでの基本設計ではその辺りの詳細な検討がなされずに終わっている傾向があります。今後はコンサルタント、メーカー、設計士等の方々にその辺りについて一層の理解を促進するとともに、関係者間の意思疎通を活発化し、我が国の現状の中での具体的取り組みにおける創意工夫が重ねられたらと考えています。そのことがプロジェクト管理、エンジニアリングにつながると思われます。

今回参加いただいた方々には、参加していただいたことにお礼を申し上げますとともに、今後そのような活動を期待したいと思っています。また、講師の方々には、ご多忙の中、講師をお引き受けいただき、講義資料の作成、講義の実施等にご尽力いただいたことに感謝いたします。

                               (文責:加藤鐵夫)

研修会の詳細については以下のページをご確認ください。