木質チップの品質規格

一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会は、全国木材資源リサイクル協会連合会とともに、燃料用木質チップの適切な利用を進めるために、その品質に関して原料、形状、大きさや水分などを定めた、品質規格を策定いたしました。

1. 概要

この度、一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会は、全国木材資源リサイクル協会連合会とともに、木質燃料の1つである「木質チップ」について、チップの原料、形状、大きさ、水分などの基準を定めた、品質規格をとりまとめました。

その間、全国木材チップ工業連合会や燃料用木質チップの生産業者・流通業者、および木質燃焼機器製造販売業者等で構成された「燃料用木質チップの品質規格検討委員会」にて、規定内容や運用方法などを詳細に吟味し、品質基準を策定いたしました。

今後はこの燃料用木質チップの品質規格のPR、関係者への説明会などを開催するとともに、今後の運用について、検討を進め、燃料用木質チップの生産・流通事業者やそれを利用する熱利用事業や発電事業者等への普及啓発と運用推進に努めてまいります。

2.品質規格のポイント

わが国で利用されている燃料用木質チップ全体を包括した品質規格

すでに、2010年12月に「木質リサイクルチップの品質規格(全国木材資源リサイクル協会連合会)」が、2012年5月には「木材チップ規格原案(全国木質チップ工業連合会)」が発表され、各団体内で運用しています。

しかし、現在利用されている燃料用チップは、原料元や種類が様々で、利用も小規模の熱利用から、大規模の発電利用までと、幅広い層に及んでいることから、木質チップの品質規格も一部の業種のみを対象としたものとせず、全体を包括し、かつ燃料用木質チップの生産・流通・利用の適正化が推進される内容の品質規格を制定することにしました。

木質チップ利用時の課題が克服できる規格内容

燃料用木質チップの利用において、多く発生する「チップが詰まる」、「チップがよく燃えない」、「火が消える」、「灰が多い」、「ボイラの損傷が多い」などのトラブルは、燃料の品質と燃焼機器の機能とがマッチしないために起こるのがほとんどです。またリサイクルチップの利用は環境へのマイナス効果が発生します。そこで燃料用木質チップの品質規格を策定するにあたっては、とくに『燃料チップと燃焼器との相性の重要性』および『環境リスクを軽減する利用法』に留意しました。

木質チップの品質を4つの段階に分類

木質バイオマス利用では先行する欧州の燃料用木質チップの品質規格をも参考に、木質チップの品質を4段階(class)に分けています。品質を判断する項目は「原料」「形状」「サイズ」「水分」「灰分」「環境リスク」の5項目にわたっています。品質基準を策定することによって、木質チップの利用者側も生産者側もお互い燃料について、理解できる目安となっています。

3. 品質規格の目的、利用方法

日本では、チップ燃料の歴史が浅いことも関係して、チップの生産およびその利用の現場で多くの問題が発生していることは確かです。その原因を探りますと、ガソリン車に軽油を入れると言ったごく初歩的な間違いが多いようです。この種の問題を無くし、正しい木質燃料の利用を進めるために品質規格があります。『このボイラにはこの品質を持ったチップを供給』、『このチップはこの種のボイラに供給』といったルール、これが “品質基準”です。単にチップ生産者とボイラ利用者に留まらず、チップや燃焼機の流通関係者、燃焼機の設計・製造者など、関係者全ての羅針盤となります。

品質規格の利用方法としては、品質基準に定めた「Class1」〜「Class4」から、燃料チップの生産や販売に関する指針が得られ、燃焼機側でも燃料チップの選択や燃焼機の設計・販売に関する適正な指針を与えることにつながる。

4. 品質規格の詳細

添付資料「燃料用木質チップの品質規格(PDF)」または下記の目次をクリックください。

目次

適用範囲・引用規格・定義

1. 適用範囲

 この規格は、燃料用木質チップ(以後、木質チップまたは単にチップと呼ぶことがある)の品質について規定するものである。対象とする木質チップは、森林由来、工場残材由来および建築廃材由来などの木質原料から製造されたもので、小規模の熱利用から大規模の発電利用の燃料として用いられるものを指す。したがって、燃料として不適な、①土砂付着の多い根株や抜根起源のチップ、②環境負荷の大きなCCA処理材起源のチップ、および水分(湿量基準含水率)55%以上の多量の水を含むチップは本規定から除外する。

2. 引用規格

 次に掲げる規格は、この規格に引用されることによって、この規格の一部を構成する。これらの引用規格は、その最新版(追補を含む。)を適用する。

  • JIS Z 7302-1  廃棄物固形化燃料-第1部:試験方法通則
  • JIS Z 7302-3  廃棄物固形化燃料-第3部:水分試験方法
  • JIS Z 7302-4  廃棄物固形化燃料-第4部:灰分試験方法
  • JIS Z 7302-5  廃棄物固形化燃料-第5部:金属含有量試験方法
  • JIS Z 7302-6  廃棄物固形化燃料-第6部:全塩素分試験方法
  • JIS Z 7302-7  廃棄物固形化燃料-第7部:硫黄分試験方法
  • JIS Z 7302-8  廃棄物固形化燃料-第8部:元素分析試験方法
  • JIS Z 8801-1 試験用ふるい-第1部:金属製板ふるい
  • JIS M8100   粉塊混合物―サンプリング方法通則

3.定義

 この規格で用いる主な用語の定義は次による。

原料木材 木質チップを製造するために用いられる幹、枝葉、樹皮、工場残材、リサイクル木材等をいう。
リサイクル木材 建築部材等に使用後、再資源化された木質資源をいう。
切削チップ チップ製造において、刃物切削によって小片化されたものをいう。
破砕チップ チップ製造において、ハンマー等で衝撃的に小片化されたものをいう。
化学処理 空気、熱あるいは水以外の化学物質による処理をいう。例えば接着、塗装、表面コート、あるいは耐火、防虫、防腐などを目的とした注入等の処理をいう。
ロット 木質チップを生産、取引、輸送、保管する際にグループ化された製品単位をいう。
分析用試料 ロットの平均的性状を示すようにサンプリングされた品質測定用の試料をいう。
水分 湿量基準含水率(M=水分重量/測定時の木材重量×100%)をいう。乾量基準含水率(U=水分重量/全乾木質重量×100%)の「含水率」と区別する。

品質基準

燃料用木質チップの品質基準を表1の通り規定する。

5.サンプリング

農産物や工業原料等の品質評価では、誤評価を生む原因の80%がサンプリング段階で生じると言われている。したがって木質チップロットの品質を正しく評価するためには、対象ロットの平均的性状を示す試料をサンプリングする技術が重要となる。本規定でのサンプリングは原則的にJIS M 8100の規定に則るが、木質チップに固有の特性等もあることから、それらを考慮したサンプリング法を規定し、本規格の附属書として添付した。 

具体的には、このサンプリング法に従って各チップロットを代表する品質を持った「分析用試料」を調整し、この分析試料を用いて以下の品質試験を行うものとする。

6.試験方法

5.サンプリング方法によって調整した分析用試料を用い、以下の方法によって試験する。

6.1 粒度分布測定方法

6.1.1 試料

分析用試料から約3kg試料を採取する。

6.1.2 分析および測定用器具

(a) はかり: 10gの桁まで測れるもの。
(b) 定規:1mmの桁まで測れるもの。
(c) ふるい:目開き4, 8,16,26, 31.5,45,63および90mmのもの。
(d) ふるい振とう機:準備することが望ましい。

注:ふるいおよび振とう機については、図1の手動ふるい器が便利である。目開きが正しければ自作でも可能。目開きの異なるものを重箱のように積み重ねる構造に設計すると操作性がアップする。

6.1.3 操作

(a) 試料の質量を10gの桁まで測定する。
(b) 目開きの大きいふるいから小さいふるいの順に十分にふるい分けする。
(c) 各目開き区分毎にふるい分けされた試料の質量を10gの桁まで測定する。
(d) ふるい分けされた試料の中で最長のチップの長さを測定する。

6.1.4 結果の表示

供試試料の全質量に対する各目開き区分の試料質量の割合を1%の桁まで求め、表3の寸法区分における「微細部」、「主要部」および「粗大部」の構成割合(%)および最大長を求め、表3に照合して該当する寸法区分記号を求める。

6.2 水分の測定方法(全乾法)

6.2.1 試料

分析用試料から一測定当たり約100〜200g×測定回数分を採取する。

6.2.2 測定器具

  • 乾燥装置:換気が良好で試料の温度を105±2℃に保つことのできるもの。
  • 乾燥容器:底面積が広く高さが低いアルミ容器。
  • ポリ袋(チャック付き):試料を入れた乾燥容器を収納できる大きさのもの。
  • デシケータ:準備することが望ましい。
  • はかり:10 mgの桁まで測れるもの。

6.2.3 操作

(a) 乾燥容器の質量を10mgの桁まで測る。
(b) 乾燥容器に試料約100〜200gを入れ、その質量を10mgの桁まで測る。
(c) 予め105±2 ℃に調節した乾燥装置に入れ乾燥する。
(d) 乾燥減量が1時間につき0.1%以下になるまで乾燥を続ける(通常、12時間以上の連続乾燥でこの条件を満たす場合が多い)。
(e) 乾燥装置から取り出した乾燥容器と試料を速やかにポリ袋に移し、湿気を吸わないようにチャックで密封した後、シリカゲル乾燥剤の入ったデシケータに移し15〜20分間放冷する。なお、デシケータが無い場合はチャック付きポリ袋で二重密封した状態で同時間放冷する。
(f) 放冷後速やかに試料、乾燥容器およびポリ袋の質量を10mgの桁まで測る。
(g) 使用したポリ袋の質量を10mgの桁まで測る。
(h) 次式により水分M(湿量基準含水率)を求める。

M={ ( m1 - m2 -m3)/( m1 - m0 ) }×100(%)
ここに、M :試料の水分(湿量基準含水率) (%)

  • m0:乾燥容器の質量(g)
  • m1:乾燥前の容器および試料の質量(g)
  • m2: 乾燥後の試料、容器およびチャック付きポリ袋の質量(g)
  • m3 :乾燥後のチャック付きポリ袋の質量(g)

6.2.4 測定回数

測定回数は2回とする。2回の測定値の差が平均値の3%を超えた場合は3回目を行い、3回測定の中央値を採用する。

6.2.5 結果の表示

水分は、2回測定の平均値または3回測定の中央値を求め、小数点以下1桁に四捨五入し、表4に照合して該当する水分区分記号を求める。

6.3 灰分の測定方法

灰分の試験方法は、JIS Z 7302-1及びJIS Z 7302-4による。

ただし、試料は分析試料より必要量を採取し、適当な粒度(1mm以下)に粉砕した後、室内で重量変化がほぼなくなるまで放置したものを用いること。

6.4 窒素分の試験方法

窒素分の試験方法は、JIS Z 7302-1及びJIS Z 7302-8による。ただし、試料は分析用試料より必要量を採取する。 

6.5 硫黄分の試験方法

硫黄分の試験方法は、JIS Z 7302-1及びJIS Z 7302-7による。ただし、試料は分析試料より必要量を採取する。

6.6 全塩素分の試験方法

全塩素分の試験方法は、JIS Z 7302-1及びJIS Z 7302-6による。ただし、試料は分析試料より必要量を採取する。

6.7  ヒ素、カドミウム、全クロム、銅、水銀、鉛及び亜鉛の試験方法

砒素、カドミウム、全クロム、銅、水銀、鉛及び亜鉛の試験方法は、JIS Z 7302-1及びJIS Z 7302-5による。ただし、試料は分析試料より必要量を採取する。

7.燃料木質チップの品質表示

主として物流過程におけるトラブル回避を目的に、燃料用木質チップの内容を表示する品質カード(表6)を作成する。

表6.品質カード

解説

1.「燃料用木質チップの品質規格」策定の経過

 わが国では従来から、木くず、おが粉、プレーナー屑などの工場残材が木材産業の有用な熱源となってきた。木質チップの熱利用が本格化してきたのは21世紀に入ってからで、意外に新しい。木質チップは製造が容易で、形状が比較的一定した小片であることから、燃焼機器への自動供給や熱量調節が比較的容易に行えるなど、固体燃料でありながら石油と同等の使いやすさがあり、今後も木質燃料の主流として多用されることは間違いない。
 現在、発電や熱の生産のために利用されている燃料用チップは、森林からの未利用材、木材加工工場からの残廃材さらに建築廃材などのリサイクル材を原料としており、一口にチップと言っても原料、形質、水分等、実に多種多様である。またチップを燃やす燃焼機器(ボイラ等)にしても、家庭用の小型のものから発電用の超大型のものまであって、それぞれに機構や機能、動作様式に違いがある。
 わが国ではチップ燃料の歴史が浅いことも関係して、「チップが詰まる」、「よく燃えない」、「火が消える」、「灰が多い」、「ボイラの損傷が多い」などの多くのトラブルが発生している。その多くは、生産者が消費者の品質ニーズを理解してない、逆に消費者が燃料チップの品質内容を理解していないことによるもので、燃料と燃焼機器との相性を理解してないことが原因している。このようなミスマッチを防ぐのにためには「生産者と消費者を結ぶ共通言語」、すなわち品質基準が不可欠となる。
 燃料用木質チップの品質基準については、既に全国木材資源リサイクル協会連合会が「木質リサイクルチップの品質規格(2010年12月)」を制定し、実際運用している。また全国木材チップ工業連合会も「木材チップ規格(2012年5月)」を制定している。しかしいずれも、各連合会が分掌するチップ製品に限って燃料利用を意識した品質基準に整理したものと理解できる。現在利用されている燃料用チップは、その由来と種類が多種多様で、燃焼される燃焼機も小規模から大規模まで多種存在することを考慮すると、これら全ての燃料チップを対象にし、かつ燃料用木質チップの生産・流通・利用の適正化に資すことのできる品質基準が必要となっている。
 そこでこの度、木質バイオマスエネルギー利用推進協議会は全国木質資源リサイクル協会連合会の協力の下、全国木材チップ工業連合会などの意見を聴取しながら、以下の3点に留意した「燃料用木質チップの品質規格原案」を提案した。

  • 燃料チップの生産、流通に関するわが国の実情を反映すること
  • チップ燃焼機との相性に十分配慮すること
  • 環境リスクの軽減に努めること

 さらにこの原案について、燃料用木質チップの生産業者・流通業者および木質燃焼機器製造販売業者等で構成された「燃料用木質チップの品質規格検討委員会」において、運用上の適性および運用方法などについて吟味し、結果として表1の品質基準を策定した。

2.既存の品質規格

(1)わが国の品質規格

①木質リサイクルチップの品質規格(全国木材資源リサイクル協議会連合会、2010年12月制定)

 建築解体材や林地残材を対象に、原料の種類やペンキ、接着剤、防腐剤などの付着の程度に応じてA〜Eの5段階に区分し、それらの用途をマテリアル用、サーマル用およびその他用に細かく規定している。サーマル用として特に規定している内容は湿量基準含水率(水分M)<25%のみで、需要者はA〜Eのチップ品質区分の中から適当なものを選択できるようになっている。具体的用途としては発電を含めた工業用ボイラ燃料、セメント原燃料および高炉還元剤である。この規定は実際に運用されており、定期的な品質検査なども実施されている。

②木材チップ規格(全国木材チップ工業連合会、2012年5月制定) 

 これまでの製紙用チップの取引で慣習となっていた品質内容を体系化し、それに燃料使用を考慮した乾燥規定(湿量含水率で、D1<20%、D2<30%、D3<50%、D4≧50%)を付加した内容となっている。金属、プラスチィック、土砂などの異物混入は不可。

(2)海外の品質規準

 木質エネルギー利用の先進地ヨーロッパでは木質燃料に特化した規格が制定されている。

①ヨーロッパ規格 EN

 14961(2011)家庭や商業施設あるいは公共ビルで利用される比較的小出力の木質ボイラ用の燃料チップを対象としている。原料を森林、植林その他からの無垢材virgin woodに限定したClass Aと、木材加工工場からの副産物や残材と使用木材 Used woodを含むClass Bに大きく区分している。さらにClassAを A1とA2に分け、水分(湿量基準)をA1では25%以下、A2では35%以下とし、灰分、発熱量に異なった基準値を設けている。Class BについてもB1とB2に区分し、Class Aよりも高い灰分(≦3.0%)を設定し、さらに防腐処理やコーティング処理に起因する重金属やハロゲン化合物の混入を防ぐ目的で、窒素、硫黄および塩素と重金属についても厳しい上限値を設けている。チップサイズについては、Wood chip(切削チップ)とHog fuels(破砕チップ)に区分して、それぞれについてチップサイズを細かく区分している。消費者のニーズ(ボイラの仕様)に応じた最適のチップが選べる設計となっている。

②オーストリア規格 ONORM

 M 7 133 チップサイズを5区分、水分(湿量基準)も上限50%で5区分、灰分は1%未満と1%以上の2区分およびかさ密度は3区分に設定している。EN規格に比べて単純で分かりやすく、欧州全体でよく利用されているようである。

3.品質基準の策定

(1)策定スキーム

 表1は木質バイオマスエネルギー利用推進協議会が策定した「木質燃料用チップの品質基準」である。表2〜5はチップの品質を規定する原料、チップの種類と寸法、水分、灰分、環境汚染元素および重金属に関する区分で、表1の品質基準と一体をなすものである。
 品質基準の策定においては、チップの品質は使用するボイラの仕様とマッチすることを基本とした。例えば表7に示すように、チップボイラの搬送装置や燃焼方式の様式や除塵装置の有無等は通常ボイラの出力規模によって異なるため、ボイラの仕様によってそれに対応した品質のチップが必要になる。

表7.チップボイラの仕様と燃料チップの品質との関係

 例えば小規模ボイラの場合、原料チップの搬送はほとんどスクリュー・コンベアによるためチップの大きさはスクリューの直径とピッチの寸法に制限される。またボイラサイズをコンパクトにする必要性から、比較的乾燥した環境リスクの少ないチップを燃焼する仕様となっている。それに対して出力規模が大きくなるにしたがって、チップサイズの影響を受けないような搬送装置や、水分の高い生チップでも燃焼できる燃焼方式等が採用されるようになり、環境汚染物質等を捕集できる除塵装置なども含めて多くの機能が付帯されるようなる。したがってチップボイラを利用する上で良く指摘される搬送、燃焼さらには環境に係わる諸トラブルを回避するためには、燃焼機の仕様に合致した品質のチップの使用が不可欠となる。
 以後、このスキームを基本として各品質項目の基準策定を行った。

(2)策定内容

原料

  燃料用の木質原料は低質のものでもよく、その由来も問わない。したがって表2のように由来も形質も異なる多種多様な原料が対象となる。

①原料の出所と品質

 一般に森林から直接出てくる未利用の原料(無垢材Virgin wood)は、有害な成分を含まないため安心して燃やすことができる。樹皮も枝、葉も有用な燃料となるが、伐根は土石を噛み込むことが多く燃料原料からは除外した。
 例え無垢材であっても灰分が多いとその処理に余分の労力と経費を必要とし、正常な燃焼を阻害するクリンカー(灰が溶融・固化したもの)の発生などにもつながる。灰の量は樹木の部位によって異なり、木部は0.5%以下であるのに対して樹皮、枝、葉は5〜10数倍も高い値を示す。したがって同じ森林由来であっても、小径材や末木・枝・葉を含む林木や灌木などから作ったチップは、樹皮を含む割合が多くなり中径丸太からのチップに比べて灰の発生量は多くなる。
 また、公園樹や街路樹は永年大気汚染物質に曝されており、果樹やエネルギー造林木は肥培や薬剤散布の影響を受けている。したがってこれらに由来するチップには環境汚染を引き起こすような成分が含まれている可能性がある。
 木材加工工場からの残材や副産物については、背板や端材のように単に機械的加工に留まるものは無垢材と同等の扱いができる。しかし合板、集成材、パーティクルボードなどの接着製品の燃焼は、接着剤に含まれる窒素により環境汚染物質であるNOxの発生につながる。また塗料や肥料などには硫黄や塩素等のハロゲン化合物を含むこともあり、同じく環境汚染物質であるSOxやダイオキシン発生の原因になることも想定できる。さらに防腐処理などの保存処理材には、有害なヒ素、カドミウム、クロム、銅などの微量重金属を含んでおり、これら化学処理材の取り扱いについては、環境リスクの軽減の観点から適切な対応が求められる。
 環境リスクとの関連で最も注意しなければならないのはリサイクル材の取り扱いである。例え化学処理がなされていない未処理グループであっても、化学処理材を完全に分別するのは不可能である。事実、リサイクルチップ工場では木質と見分けがつかないプラスチック製擬木などもあり、その分別に苦労している。この点で未処理リサイクル材は未処理工場残材よりも環境リスクの高い燃料に位置づけることができよう。
 化学処理リサイクル材の取り扱いは化学処理工場からの残材と同様であるが、建築解体材には過去に使用されたCCA(クロム、銅、ヒ素)処理材が含まれる。これは毒性が高いため、リサイクルチップ工場ではこれを肉眼で分別排除しているが完全排除は事実上困難であることも指摘されている。本基準でもCCA処理材を除外することにしているものの、リサイクルチップには多少なりとも含まれていると理解すべきである。

②リサイクル材の環境リスク

これまでリサイクル材の使用は環境リスクを伴うと述べてきたが、リサイクル材が環境汚染物質をどの程度含み、その利用は果たして安全であるのかを見極めておく必要がある。
 神奈川県環境科学センターの調査報告によると、CCA処理材を廃棄、焼却した後、土壌環境を経由して水や食料から人が摂取した場合を想定した健康評価試験からは、発ガン性は非常に低いとしている。しかしこれ以外にリサイクル材の環境リスクを総合的にまとめたわが国の資料は見あたらなかったが、フィンランドとスウェーデンの事例を見つけることができた(表8参照)。前者はフィンランド技術研究センター(VTT)のArakangasの報告で、後者はKrookらの学会投稿論文であり、いずれも信頼性の高いものと判断できるArakangasの結果からは、使用木材の方が、あるいは未利用材の方が高濃度のものや、両者に差が見られないものなどがあり、両者間の差はあまり大きくないことを示唆している。一方Krookらの結果では、使用木材の重金属濃度は未利用材に比べて明らかに高いが、その値はArakangasが使用木材で求めた値の範囲に入っている。

原料区分

 原料の仕分けについては、燃料として安全性が高いものから順にClass1〜Class4に4区分した。その結果は表1の原料項目の通りである。ここでClass1とClass 2はいずれも無垢材である。Class1は灰分が最も少なく良質のチップが期待できる。Class2は灰分が少し多い原料である。Class3は環境負荷が懸念される剪定枝等、灰分の多い樹皮、未処理リサイクル材からなっており、Class4に最も環境負荷の高い化学的処理材を位置づけた。

チップの形状

 木質チップには、原料を刃物で切削して得られる切削チップとハンマー等で打撃して破砕する破砕チップとがある。切削チップは角形で厚さが薄いのに対し、破砕チップは繊維方向に細長い形状を持つことから両者は容易に区別できる。
 切削チップの特徴は、搬送にあたってブリッジが生じにくく、ハンドリングが容易であることから、小型〜大型までのあらゆる搬送機に利用できる点にある。それに対して破砕チップは、絡みやすいため搬送トラブルの原因となりやすい。とくにスクリュー・コンベアでは搬送途中で詰まりやすいため、通常スクリュー・コンベアが設置されている小型ボイラには不向きと言われている。
 以上の理由から、とくに小規模ボイラに対しては切削チップが不可欠であると判断してClass1には切削チップを割り当て、それ以外のものについては搬送機の仕様に応じて切削チップか破砕チップのいずれかを選択できるようにした。

チップの寸法

 チップの大きさは搬送性と燃焼速度に関係する。とくに搬送トラブルの多くは搬送機とチップ寸法との不適合によるもので、その回避には各燃焼機の搬送機の仕様にマッチした大きさのチップを選ぶ必要がある。とくに微細なチップは機械トラブルや瞬時燃焼による異常高温の、また大きなものや長さの長いチップは搬送詰まりの原因になるため、その混入を規制することが重要となる。
 このような観点からチップ燃焼機には、燃焼機それぞれで効率的、安定的に燃焼できるチップ寸法が推奨されており、表3に示したP16、P26、P32およびP45のチップの寸法区分はチップ寸法の利用実態を考慮して設定したものである。

水分

 燃料に含まれる水は発熱量や着火性、燃焼性に大きく関係し、チップ燃料の価値を決定するとくに重要なパラメータである。

①含水率と水分

 本題に入る前に含水率に関する用語について整理する必要がある。含水率の表現法には、乾量基準含水率U(全乾重量に対する水分重量の比)と、湿量基準含水率M(水を含めた全体の重量に対する水分重量の比)とがあり、木材の材料利用分野では乾量基準を、原料利用分野では湿量基準を使用することが世界規律となっている。ところが困ったことに両分野ともそれらを「含水率」と呼び慣わしていることで、全乾重量と水分重量が等しい木材の含水率は、乾量基準で100%、湿量基準で50%となり、名称だけが一人歩きするととんでもない間違いにつながりかねない。この誤解を避けるために乾量基準(dry base)、湿量基準(wet base)といちいち指示することも行われている。
 一方、日本工業規格(JIS)では、木材(JIS Z2101)に対しては乾量基準を適用し、呼称を「含水率」としている。それに対して廃棄物固形燃料(JIS Z7302-3)、石炭でおよびコークス(JIS M8812)、紙および板紙(JIS P8127)等では湿量基準を適用し、呼称を「水分」としている。そこで本規格でも含水率の数値表示に関する不要な混乱を避けるために、JISに準じて乾量基準含水率を「含水率」、湿量基準含水率を「水分」を用いることとする。

②水分と燃料品質

 木材の水分は伐倒直後が最も高く45〜65%である。丸太のままであるいは加工した状態で放置すると徐々に乾燥し、最終的には20%程度で平衡する。 チップ中の水はチップ製造した時点の原料に含まれた水であり、森林由来のチップは概して高めで、リサイクルチップは比較的低く、工場残材は人工乾燥を経たものも含まれるため高いものも低いものも見られる。
 このような水の多少はチップ燃料の発熱量、着火性、燃焼性に直接関係し重要な品質指標となっている。そのほかに微生物による生物劣化に関連したチップの貯蔵性能にも影響することが知られているがここでは割愛する。
 発熱量には高位発熱量と低位発熱量がある。前者は測定した燃料が保有している熱量であり、後者は一般的に実際に熱エネルギーとして利用できる熱量で、燃料中の水素(木材の場合一般に6%)から生成する水および本来含まれている水の蒸発に使われる蒸発潜熱(凝縮潜熱に等しい)を高位発熱量から差し引いたもので、計算よって求められる熱量である。
 全乾木材の高位発熱量は、針葉樹と広葉樹、木部、樹皮、枝、葉で若干異なるものの総じて20MJ/kg である。当然水分の増加に伴って減少し、生材に相当する50%では10MJ/kg にまで低くなる(表9参照)。チップの燃料価値は水分の多少に直接依存することが容易に理解できよう。

表9.木材の発熱量

 水分の影響は発熱量のみではなく着火性や燃焼性にも及ぶ。水分の高い生材チップは通常は燃えない。強制的に火をつけてもすぐに立ち消えしてしまい、燃料としての資質を有しない。中部ヨーロッパでは丸太を風通しのよい土場等に一夏〜1年近く天然乾燥すると、チップは水分35%程度にまで下がるといわれている。さらに乾燥期間を延長しても水分20%を切ることは難しく、それよりも低い水分を要求するときには人工乾燥に頼らざるを得ない。因みに水分が35%程度まで下がると通常のボイラで良好な燃焼状態を示す。いず れにしても水分が高いと着火しにくく、着火しても煙が多く不完全燃焼になり、燃焼効率も低くなり、燃料としての評価を低めることになる。
 一方森林由来のチップでは、乾燥に時間と手間がかかり、生あるいはそれに近い状態のチップを燃やしたいとする要望が強い。結果的には生チップでも燃やせるように工夫されたボイラもある。原理は炉内に投入された生チップの近くを燃焼ガスが通るようにしてチップを乾燥し、乾燥したチップを順次内部に移して燃焼する仕組みである。水分55%程度のチップを投入しても連続運転が可能である。このような機構を備えたボイラは出力が中規模以上のものに見られ、これを生チップボイラと呼んでいる。

③ 水分区分

 リサイクルチップの多くは長期間建築物に利用された気乾木材を原料としている。熱量の高い燃料チップとして水分25%以下に規制して供給されている。したがって水分区分を策定するにあたってはリサイクルチップでの実績を評価し、さらに各種ボイラの燃料水分にかかわる特性を考慮して表4のM25、M35、M45およびM55に4区分した。
 品質基準への適用に対しては、まずClass1に想定した小出力の小型ボイラは、スペース的に多機能な装備を実装することが難しく、通常乾燥した良質のチップを必要とすることから、これまでもトラブルの少なかったM25またはM35を割り当てた。 また中規模のボイラでは、生チップボイラも含めて、乾燥チップから生チップまで利用できる機種が揃っていること、発電用を含めた大規模ボイラの場合も水分の要求度は少なくなるものの、水分が比較的低い燃料を必要とするもの、水分の高い燃料でも対応できるものがあることから、Class2〜Class4は必要に応じてM25~M55のものから選択できるように設計した。

灰分

各Classの原料に含まれる灰分を既往の研究結果から想定して、灰分区分を表5のように4区分を設け、Class1にはA1.0を、Class2にはA1.5を、Class3と4にはA3.0およびA5.0のいずれかを選択できるようにした。

環境汚染に関係する元素と重金属

 これらの規制基準は化学的汚染が懸念されるClass3とClass4に設定した。これらの規制値は、前出のArakangasが提示した化学処理木材の閾値を採用した。

(文責 沢辺 攻)

附属書(規定)木質チップのサンプリング方法 1

1.適用範囲

 この規格は、粉塊混合物―サンプリング方法通則JIS M8100および欧州規格の固形燃料のサンプリング法EN 14780:2011に準拠して、出荷直前にある木質チップを対象にしたサンプリング方法に編成し直したものである。

2.用語の定義と概要

 サンプリング法に用いる用語の定義と概要は次による。

  1. ロット:木質チップを生産、取引、輸送、保管する際にグループ化された製品単位をいう。ロットを構成する木質チップの量をロットの大きさという。
  2. インクリメント:1ロットからの試料サンプリングにおいて、試料採取器を用いて1動作で採取できる単位量の試料を言う。採取できるインクリメントの量をインクリメントの大きさという。
  3. 小口試料:数個のインクレメントを集めた試料をいう。
  4. 大口試料:ロットから採取したインクレメント、また小口試料の全部を集めた試料をいう。
  5. 縮分:集合体からサンプルを取る場合、集めたサンプルから徐々に量を減らして分析用試料を得る操作をいう。
  6. 分析用試料:ロットの成分の平均的性状を測定する目的で採取した試料をいう。この試料から物理特性用(粒度分布、かさ密度など)、水分・発熱量用および成分用(灰分、元素組成、重金属など)の試料に分別する。

3.サンプリグ方法

3.1 試料採取および試料調整の概要

 ロットから所定の大きさのインクレメントを必要数採取し、それらを集めて小口または大口試料とする。この大口試料を必要に応じて縮分して分析用試料に調整する。

図1.試料採取および試料調整の概要

3.2 試料採取の手法

 試料の様態に応じて、次の方法が採用される。

(1)ランダムサンプリング

 ロットを構成する試料の単位体、または単位量がいずれも同じ確率で採られるようにインクレメントを採取する方法。

(2)系統サンプリング

 ロットの移動中に量的、時間的又は空間的に、一定間隔で試料を採取する方法。ロットの大きさを採取個数で除した値未満の整数値をもって採取間隔とする。

図2.系統サンプリングの概要

(3)二段サンプリング

 ロットをいくつかの部分(一次サンプリング単位)に分け、先ず第一段としてそのいくつかの部分をランダムサンプリングし、次に第二段として、その中からそれぞれいくつかのインクリメント(二次サンプリング単位)をランダムにサンプリングする方法

図3.二段サンプリングの概要
図3.二段サンプリングの概要

(4)層別サンプリング

 ロットをいくつかの副ロット(層)に分け、それぞれの副ロットからインクルメントをランダムサンプリングする方法。通常、層の大きさに比例してインクルメントの数を調整する。

3.3 インクレメントの大きさの決定

 ロットの最大粒度(試料のふるい上残留率が5%に相当するふるい目の大きさ)によって表1に示す体積以上とする。採取に際してはJISに規定する番号のインクルメントスコップ(図4)を利用することが好ましい。

3.4 インクレメントの採取個数の決定

 ロットの大きさによって採取するインクレメントの最小必要数を、表2に示す数量以上とする。ただし、採取試料が必要とする分析用試料の量よりも少ない場合は、インクリメントの大きさを大きくするよりはインクリメントの数を増加する方が好ましい。

表1.木質チップの寸法区分とインクルメントの大きさとの関係
図4.インクリメントスコップ
表2.ロットの大きさと採取するインクリメントの最小必要数

4.サンプリング方法の実際

 ロットの状況と荷役や設備に応じて3.2によってサンプリング手法の種類を定め、試料採取と試料調整を行う。

4.1 ストックパイル(堆積物)サンプリング

 ストックパイルのランダムな場所のランダムな深さからインクリメントを採取する方法。

図5.ストックパイルサンプリングの一例
  1. ロットに対応したインクリメントの大きさと最小必要個数を表1と2から決定する。
  2. ストックパイルを場所別、上下別などに層別して、層別比例サンプリングする(図5参照)。
  3. やむを得ずロット表面からだけインクリメントを採取した場合は、略号(T.P)を必ず付記すること。
  4. ストックパイルのままでのランダムなインクリメント採取は困難な場合が多いため、ストックパイルを作製中、あるいは取崩し中に採取するなどの工夫が必要。

4.2 コンベヤサンプリング

 ロットがコンベヤによって移動しているとき、コンベヤまたはその落ち口から系統サンプリング方法によってインクリメントを採取する。

図6.試料採取機の一例
図7.コンベヤサンリングの一例
  1. インクレメントの最小必要個数は、ロットの大きさにより調節し表2の値以上とする。
  2. コンベヤなどの落ち口で、落下するチップの全流幅から、試料採取器を用いてインクリメントを採取する(図6参照)。 
  3. コンベヤを停止して採取する場合は、停止前に採取起点を決め、規定のインクリメントの大きさ以上の量をコンベヤの長さ方向に沿って、ロットの最大粒度の3倍以上の幅を持ってコンベヤの全流幅にわたって全量を採取する(図7参照)。
  4. 系統サンプリングでは量的に等間隔でインクリントを採取するのが原則である。 例えば、ロットの大きさが4.5tの場合、表2より最小採取個数n=10より、インクリメントの間隔は4.5 t/10=0.45 tとなる 。したがってこの場合、0.45 t以内でランダムに最初の採取を行った後、0.45 t毎にインクレメントを採取する。

4.3 容器サンプリング

 ロットが袋(トンバッグ)やその他の容器に入っている場合、二段サンプリング法によりインクリメントを採取する。

  1. 容器が1ロットの場合、原則として表2の最小必要個数の1/2のインクリメントを採取する。
  2.  以上の容器を1ロットとする場合、各容器から次式で求めたインクリメントを採取する。
    ここに、
    ni:インクリメントの必要数、n:表2による最小必要個数、m:容器数

4.4 車両サンプリング

 ロットがトラックまたは貨車などに積まれている場合、荷役中に落下中の試料から系統サンプリングによってインクリメントを採取する。 

5.大口試料の縮分

 以下の方法のうち、一つの方法またはいくつかの方法を併用して行う。

(1) インクリメント縮分方法:試料の状態によって4等分または20等分が用いられる。

図8.インクルメント縮分の方法

(2)円すい四分方法

図9.円すい四分方法の概要

図9.円すい四分方法の概要

6.分析用試料の取り扱い

(1) 試料容器

 試料の全量が入り、清浄で、丈夫で、確実に密封できるものを使用すること。特に保管や輸送中に水濡れや吸湿、乾燥が生じないようにプラスチック製あるいは金属製の密封または封印できる袋あるいは容器を利用すること。

(2) 試料の包装および表示

 試料は密封して送付または保管する。包装には原則として次の項目を表示する。

  1. 製品名称
  2. 製造業者名及びその所在地、電話番号
  3. 製造年月及びロット番号
  4. 原料の樹種と部分
  5. 試料採取・調製年月日
  6. 試料採取方法
  7. 試料採取責任者および試料調製者氏名
  8. その他必要事項

(3) 試料の送付および保管

 試料を送付するときは試料容器を密封し、異物が混入しないように丈夫な包装をし、前項の表示をする。また同様の表示ラベルを試料容器内にも入れておくことが好ましい。とくに水分測定用試料は、試料容器に入れて密封して送付する。